平和外交研究所

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2019.04.18

北朝鮮の対米非核化交渉新方針

 北朝鮮では4月9日から労働党と国家の最重要会議が開催され、12日には金正恩委員長が演説を行い対米交渉などに関する方針を語った。労働党の会議は拡大政治局会議と中央委員会総会であり、国家の方は最高人民会議(国会に相当)であった。

 金正恩委員長は、ハノイでのトランプ大統領との会談において「北朝鮮は寧辺の核施設を廃棄し、米国はそれと引き換えに制裁を緩和ないし廃止する」という取引が成立すると予想していたことは誤りであったと悟ったのであろう。ハノイでの首脳会談後、李容浩外相に異例の記者会見を開き、北朝鮮の考えをあらためて説明させていた経緯がある。

 今回の演説で、金委員長は「米国との間で信頼関係が欠けている現段階では、北朝鮮として、安全保障上、すべての核をさらけ出し、包括的に交渉の俎上に載せることはできない」ということを前面に押し出した。この考えは分かりやすく、各国から理解されやすい、米国に対して段階的非核化を説得するのに効果的だとみているのであろう。

 これに対し、米国はあくまで「包括的非核化」であるが、金委員長は、米国がその考えを改めれば第3回の首脳会談に応じるとする一方、北朝鮮としては非核化の大方針は変えない姿勢を示し、また、トランプ委員長と「立派な関係を維持している」と述べている。金委員長は、今年いっぱいを期限とするなど、米国の対応いかんでは以前の敵対状況に立ち返ることも辞さないことを示唆しているが、基本的には硬軟両様でトランプ大統領と対話を続け、なんとか妥協して合意を成立させたい考えだと思われる。

 また、北朝鮮は、対米交渉と並行して第三国に対しても自らの主張の正当性をアピールしようとしている。とくに、中国とロシアであり、中国については昨年から今年にかけ金委員長が4回も訪中した。

 ロシアとの連携は遅れていたが、4月24日、金委員長はウラジオストックを訪問し、プーチン大統領と初めての会談を行うことになったという。

 中国とロシアは北朝鮮にとって数少ない理解者であり、制裁についても一部の緩和ならば北朝鮮を支持している。金委員長は、中ロ両国が今後の対米交渉について力強い味方になると見ているのである。

 「段階的非核化」を目標とする北朝鮮の基本方針は中ロに対してのみならず、その他の国に対しても分かりやすく、理解されやすい。北朝鮮は今後、各国の支持まで獲得するのは簡単でないが、理解を求めるためにアピールを強めるだろう。外務次官の崔善姫(チェ・ソンヒ)を最高人民会議で国務委員に抜擢したのはそのためだと思われる。

 一方、「包括的非核化」を求める米国の主張は、核問題、特に検証の専門家からすれば絶対的に必要であるが、分かりにくいのが難点である。北朝鮮との交渉にたずさわっている米国の高官からも、「包括的非核化」の必要性を本当に理解しているか疑問に思われる発言で出てくるのが現実であり、トランプ大統領にとって金委員長が打ち出した新方針はなかなかの難物になると思われる。

 なお、韓国の文在寅大統領は、平壌で最高人民会議が開催されているのと同時期に訪米してトランプ大統領と話し合い、北朝鮮との関係の打開を図ったが、トランプ大統領から好意的な反応は得られなかった。しかも、金委員長からは、「(米朝関係の)仲裁者や促進者のふるまいをせず、民族の利益を擁護する当事者になるべきだ」と厳しく批判された。これでは文大統領の立つ瀬がないが、金委員長の新方針には韓国に期待することを当面止めるということも含まれていたように思われる。

2019.04.13

北朝鮮の非核化に関する文在寅大統領の役割-トランプ大統領との会談

 韓国の文在寅(ムン・ジェイン)大統領は4月11日、トランプ米大統領とホワイトハウスで会談した。今回の訪米の最大目的は、北朝鮮の非核化についてトランプ大統領と協議し、韓国としての役割をあらためて確認する、あるいは固めることであっただろう。メディアにおいてもそのような見方が一般的であった。文大統領は米朝の「橋渡し」を試みたとも評された。

 しかし、この目的は達成されなかった。去る2月末のハノイにおける米朝首脳会談は物別れに終わり、北朝鮮は非核化を実行するか、赤に近い黄色信号が点いたなかで文大統領は善意の第三者的役割を果たそうとしたのだが、結局それはできなかった。文大統領はトランプ大統領の固い態度。つまり、「包括的非核化」があくまで必要であり「段階的前進」は問題であることをあらためて印象付けられる結果に終わったのであろう。

 文大統領が第三者的役割を果たすうえで最大の問題は、トランプ大統領に対して金委員長の主張を容れるよう説得するか、逆に、金委員長に対してトランプ大統領の主張を受け入れるよう説得するかであり、これまではトランプ大統領に説得を試みてきた。

 しかし、米国の立場は大きく異なっている。そもそも核問題については韓国に役割はないと米国はみなしている。もちろん実際の会談では外交儀礼を完全に無視するわけにいかないので間接的な表明になるだろうが、米国の立場は明らかである。韓国が米国にとって有益なことをするのであれば歓迎するだろうが、そうでない限り、余計なことはしないでほしい、という姿勢である。

 それでも金正恩委員長が昨年の新年の辞で、平昌オリンピックへの参加を表明して以来、韓国として金委員長のメッセージを米国に伝えるなど一定の範囲内で役に立ってきたが、シンガポールでの初の米朝首脳会談以降は米朝間で直接折衝することになり、韓国が第三者的役割を果たす余地はほとんどなくなった。

 客観状況が変化しただけではない。韓国は米国に対して米国が評価しないことをしてきたのではないか。具体的には「段階的措置」、「体制保証」、「戦争終結宣言」、それに「制裁の緩和」など北朝鮮の米国に対する要求を韓国は支持してきた。支持したというより、むしろ積極的に勧めたのではなかったか。

 これらのうち、「体制保証」と「戦争終結宣言」はもはや話題にも上らなくなっている。残る「段階的措置」と「制裁の緩和」について、文大統領は米国を説得するか、それとも北朝鮮を説得するか選択しなければならないのであり、今回のトランプ大統領との会談結果を見ると、文大統領は今後も金委員長の主張を受け入れるようトランプ大統領に説得を試みる考えのようである。

 一方、金正恩委員長は文在寅大統領の仲介努力を有効と見ているか、疑わしい。シンガポール会談までは頼りにしてきたが、今やトランプ大統領は文大統領の説得を受け入れないことがはっきりしてきた。その分だけ金委員長は文大統領に頼らなくなっていているのではないか。金委員長が、すでに約束しているソウル訪問をなかなか実行しようとしないのもそのためではないか。

 文大統領があいかわらず金委員長の代弁をしているのは残念なことである。文大統領は、韓国国会でも北朝鮮寄りの姿勢を厳しく批判されているという。

 文大統領として今後必要なことは、基本的にはトランプ大統領の立場から金委員長を説得することであろう。
 トランプ大統領は「包括的非核化」を目指すとしているが、条件次第では例外的に部分的措置を受け入れることがありうる。カギとなるのは米国世論を代表する議会であり、また、核問題の研究者であろう。具体的には、寧辺の濃縮施設の廃棄というような個別の問題でなく、あくまで包括的な非核化計画を前提とする「段階的措置」でなければならないだろう。たとえば、北朝鮮が保有する核をすべて米側に示しつつ、その廃棄は「段階的」に進めることが考えられる。

2019.04.12

北朝鮮の重要会議と人事一新

 さる2月末、米朝第2回首脳会談が物別れに終わったことを受け、北朝鮮では党と国家の重要会議が開かれ、また、金正恩委員長以下の指導体制が一新された。

 まず、朝鮮労働党の中央委員会政治局拡大会議が9日、次いで中央委員会総会が翌日開催された。

 金委員長は政治局拡大会議では「党および国家的に早急に解決し、対策を立てなければならない問題」についての分析を示したと北朝鮮メディアが報道した。その内容を知りたいところだが、公表されていない。

 中央委員会総会では、米朝首脳会談について説明し、そのうえで、「制裁で我々を屈服させられると誤解している敵対勢力に深刻な打撃を与えるべきだ」と述べた。
この発言は、非核化の達成まで制裁を緩和しようとしない米国に対抗する姿勢を示したものだと受け止められた。金委員長が米国に対抗する姿勢を変えていないことは注目されたが、米国との関係、とくにトランプ大統領に対する認識は変えていないと見られる。核とミサイルの実験中止以前であれば、米国に反発するときは軍事的に挑発的な姿勢を示すことが多かったが、今回はそのような挑発的言及はなかったからである。

 金委員長が党と国家の最重要会議を開催して米朝首脳会談を総括したのは、トランプ大統領との会談に臨む方針を変更するためでなく、維持することが目的であり、そのことについてあらためて党と国家の意思を固めておこうとしたものと推測される。逆に、対米交渉方針を変更しなければならないと認識しているのであれば、党と国家の最重要会議を大々的に開催することなどしないだろう。

 金委員長が維持しようとしている対米交渉方針の要点は次のとおりだと思われる。ただし、今後検証が必要である。

〇核とミサイルの実験停止は維持しつつ。経済発展を重点的に進める。

〇完全な非核化の目標は変えないが、現状では段階的に非核化を進める。北朝鮮の安全保障のためにはそれ以上はできない。

〇北朝鮮側での段階的非核化の実施に応じて米側に制裁の緩和を求める。

〇米国はあくまで制裁を緩和しない可能性があるが、北朝鮮国民には忍耐を求める。

 党中央委員会総会の翌日(11日)に開催された北朝鮮の最高人民会議(国会に相当)では金正恩委員長を支える指導体制が一新された。その中では次の人事が注目された。

 崔竜海(チェ・リョンヘ)党副委員長が高齢の金永南(キム・ヨンナム)の後任として最高会議常任委員長に選出された。崔竜海は金正恩委員長によって登用された人物で、イエスマンである。

 核問題交渉役のトップで、第2回米朝首脳会談にも同行した金英哲(キム・ヨンチョル)党副委員長の地位は不変である。

 李容浩(リ・ヨンホ)外相と崔善姫(チェ・ソンヒ)外務次官が国務委員に選ばれた。
 李外相はハノイの首脳会談後異例の記者会見を行い、北朝鮮の非核化方針を説明した人物である。
 崔外務次官は金委員長の下で目覚ましく昇進を続けてきた。北朝鮮の高官として異例の率直な発言をすることがあり、今後も段階的非核化方針を対外的に発信するものとみられる。

 おりしも、トランプ米大統領は11日、ホワイトハウスで行われた韓国の文在寅大統領との会談冒頭で記者団に対し、金正恩委員長との3回目の首脳会談は「あり得る」と語った。トランプ氏は金委員長に対してハノイ会談後も好感を抱いている趣である。

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