平和外交研究所

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2015.08.13

南シナ海の問題はASEAN拡大外相会議でどのように扱われたか

 毎年7月末頃に開催されるASEAN拡大外相会議(PMC)は、南シナ海での紛争をめぐってASEANと中国、さらに米国と中国が議論を戦わせる場になっている。尖閣諸島の関連でも注目しておく必要があることだ。
 今年の8月6日、クアラルンプールで開催されたPMCは、中国による南沙諸島での埋め立て工事など拡張的行動があったのでとくに注目された。会議後発表された共同声明の関連部分は次の通りである。
「The Meeting discussed matters relating to the South China Sea and took note of the serious concerns expressed by some Ministers over the recent and on-going developments in the area, including land reclamation, which have resulted in the erosion of trust and confidence amongst parties, and may undermine peace, security and stability in the South China Sea.」(パラ25)
「The Meeting reaffirmed the importance of maintaining peace, security and stability, freedom of navigation in and over-flight above the South China Sea.」(パラ26)

 この文言はかなり抑制されたものになっているが、諸報道によると会議の中ではかなり激しい議論があったようだ。
 ケリー国務長官は”China’s construction of facilities for “military purposes” on man-made islands was raising tensions and risked “militarization” by other claimant states”.
“Freedom of navigation and overflight are among the essential pillars of international maritime law,”
“Despite assurances that these freedoms would be respected, we have seen warnings issued and restrictions attempted in recent months,”
“Let me be clear: The United States will not accept restrictions on freedom of navigation and overflight, or other lawful uses of the sea.” などと発言した。
 この場には王毅外相も出席しており、ロイター電によると、ケリー発言は中国に対する遠慮ない(blunt)批判であった。
 ケリー長官はこの他、埋め立て、建設および軍事化をやめることを提案したがこれは共同声明に盛り込まれなかった。
 ロイター電は、さらに、中国がフィリピンの航空機に対して何回も南沙諸島から離れよと警告したこと。米国のP8-Aポセイドン偵察機に対して中国は8回警告したこと(同機に同乗したCNNの記者の報道)などを付記していた。それだけ航行の自由が妨げられたということである。
 
 ASEANの側でもっとも強い発言をしたのはフィリピンであり、デル・ロザリオ代表は国際司法裁判所への提訴状況を詳細に説明した。これに対し王毅外相は、フィリピンは事前に通報してこなかったし、仲裁裁判を求めることについて同意も求めなかったなどと述べつつ、国際仲裁裁判は受け入れられないという、従来からの中国の立場を繰り返した。
 中国は、南シナ海の問題は東南アジア諸国と中国の話し合いにより解決しよう、米国のような第三国は介入すべきでないという立場である。

 王毅外相は、10月中旬にASEAN各国の国防相を中国に集めて初の非公式会議を開くことなど、中国とASEANの協力促進のため10項目の提案を行なった。いかにも中国らしい提案である。

 なお、南シナ海諸国(東南アジアと中国)の共同宣言(DOC Declaration on the Conduct of Parties 紛争の平和的解決と敵対的行動の自制、および、軍関係者の相互交流などによる信頼醸成を高めること)の履行と、次のステップとしての行動綱領(COC Code of Conduct of Parties 領有権に関する紛争を海洋法にしたがって解決することなどを含む)採択へ向けての努力についても議論されたが、とくに進展はなかったようである。

2015.05.26

NPT・中東非核地帯構想・米イスラエル関係

 5月22日、NPTの再検討会議は、中東非核地帯構想をめぐる米欧とアラブ諸国の激しい対立が直接的な原因で決裂した。この構想は、1995年、NPTが無期限延長される際に、米国はじめ核保有国が例外的に大幅な譲歩を行なって検討課題にまで押し上げたが、その後は全く進展していない。中東和平が成立しない限り、生存の危機にあるイスラエルは核兵器を保有し続け、一方、アラブ諸国はNPTで核兵器の保有を禁止されているという状況が続くわけであり、そうである限り中東を非核地帯とすることは困難であろう。
 にもかかわらずこの構想実現のために国際会議を強引に開催すれば、イスラエルが袋叩きにあうのは不可避であり、米国や欧州諸国はそのようなことは認められないとして、これまで通りイスラエルを擁護したのである。

 一方、NPTの外で行なわれている、イランの核開発を抑制するための交渉は、2013年8月にロハニ大統領が就任して以来進展しており、イランは米国に対し国際原子力機関(IAEA)の「抜き打ち査察」を受け入れる用意があると表明したと報道された。「抜き打ち査察」を受け入れるとは、イランが2013年に署名したIAEAの「追加議定書」を批准することを意味している。イランは今まで通常の査察しか受け入れず、しかも、米欧諸国との交渉が進まなくなると査察官を締め出すなどしていた。つまり、通常の査察でさえ十分に協力しなかったので、イランが本当に「抜き打ち査察」を受け入れると、大きな前進となる。

 イスラエルは交渉の当事者ではないが、イランが核兵器を獲得すると直接脅威を受けるので、かねてから交渉6カ国が安易な妥協をしないよう強く要望していた。とくにネタニヤフ首相は強硬で、イランとの対話を実現したいオバマ大統領に批判的な姿勢をとっており、先だっては米国政府と協議しないで米議会を訪問してオバマ大統領に批判的な演説を行い、イスラエルと米国の関係は急激に悪化した。
 この度のNPT再検討会議で米国はイスラエルを擁護する姿勢を再確認したが、今後も米国とイスラエルの関係は微妙に変化する可能性がある。
 その1つの要因は、ネタニヤフ首相の強硬姿勢であり、これがいつまで続くかが問題となる。
 第2は、2016年に行われる米国の大統領選である。
 第3は、イランと6カ国の核交渉は6月に「枠組み合意」を実現することを目指している。
 第4は、イスラエルと中国の接近である。従来、中国はアラブ諸国よりであったが、新疆問題などを契機に中国とイスラム勢力との間の矛盾が増大したこともあり、また武器貿易の関係などからイスラエルに接近する姿勢を見せている。

 NPT再検討会議で米欧諸国が見せた明確なイスラエル支持の姿勢は、両者の基本関係が変わっていないことを示したが、中東をめぐる情勢、米国との関係、さらには中国との関係などは確実に複雑化している。

2015.05.17

ガイドライン再改定で日米同盟はどう変わる?

THE PAGEに5月17日掲載されたもの。

「日米両国は4月27日、「防衛協力のための指針(以下「指針」。ガイドラインと呼ばれることもあります)」を改定しました。「指針」とは、平たく言えば、日米の防衛協力のための具体的な方法や分担などを定めたもので、情報収集、防空・ミサイルへの対応、訓練、施設の利用、避難民の保護、捜索・救難などの具体的な事態が想定されています。
 日米間には安全保障条約(安保条約)がありますが、これは両国の法的な権利・義務を定めたもので、具体的事態において日米は「指針」にしたがって行動します。
 「指針」は条約でないため国会の承認は必要でありませんが、両国間の約束であり、日本の安全保障にとって非常に重要です。

 「指針」が初めて作られたのは1978年で、アフガニスタンへの侵攻などソ連の脅威が増大しており、日米両国は迅速に安全保障協力を行なうことが必要になっていました。
 冷戦の終了後、グローバル化の進展とともに日米両国はアジア・太平洋の平和と安全に従来以上大きな責任を認識するようになり、1997年に「指針」が改定されました。
 今回の改定は第2回目です。第1回目の改定から18年の年月が経過してアジアの安全保障環境は大きく変化し、とくに中国の急速な軍事力増強は日米両国にとって非常に懸念すべき問題となっています。米国は核の抑止力を堅持する一方、軍事戦略の見直し(リバランシング)を行ない、アジア太平洋を重視する姿勢を鮮明にしています。
 日本は2013年12月に策定された「国家安全保障戦略」の下で、一方では、その翌年に決定された「防衛計画の大綱」に基づく防衛力を保持しつつ、他方で安全保障関係の法整備を進めており、安倍首相は「夏までに法整備を完了する」と公言しています。

 このような状況下で日米両国が行なった今回の「指針」改定のポイントは、次のようにまとめることができます。
 まず、大きく分けて「日本に対する攻撃あるいはその恐れがある場合」と「他国での平和実現・維持の場合」に分けるのが便宜です。細かいことには立ち入りませんが、前者は日米安保条約の運用の問題であり、後者は国連決議の履行が問題と言えます。もちろん、「指針」において扱われることは、多国間で国連決議を実行するなかで日米がどのように協力するかです。
 
 日本に対する攻撃あるいは脅威の場合、従来の体制では十分に対応できないことがありました。たとえば、他国の潜水艦が我が国の領海を通過する場合海上を航行しなければなりませんが、中国の潜水艦がこの国際ルールを破って水中に潜ったまま通過していくことがありました。これに対して米艦が対応しようとして逆に相手方から攻撃を受けた場合、自衛隊は何もできませんでしたが、それは妥当でないとの考えが採用され、新「指針」では米艦を守ることが可能になりました。米艦を「アセット(装備品)」とみなして防護することにしています。この場合、現実に武力攻撃は行われていないので、「グレーゾーン」、つまり武力攻撃と平時の中間の事態と見られています。
 また、たとえば、日本の離島に外国兵が侵入・上陸してきた場合、警察力(海上保安庁はこれに入ります)で排除するのが原則であり、大規模な侵入であっても自衛隊として対応できませんでした。しかし、新「指針」では、自衛隊は侵入者を「主体的に撃破」し、米軍は「自衛隊の作戦を支援しおよび補完するための作戦を実施する」ことになりました。自衛隊は警察や海上保安庁に代わってではなく、みずからの本務として対応するということです。このような事態は「不正規攻撃」と呼ばれています。
 さらに、日本に対する攻撃や脅威に米軍が対処する場合、これまで自衛隊が米軍に協力する範囲は「周辺事態」に限定されていましたが、そのような限定は現在の状況に照らしてふさわしくないと考えられ、日米は「日本の平和及び安全に重要な影響を与える事態に対処する」「当該事態(このような事態)については地理的に定めることはできない」と明記されました。自衛隊の行動範囲が「周辺事態」から「重要影響事態」に拡大したわけです。
 具体的な対処については、前述の「アセット防護」の他、ミサイル防衛による対応能力の強化や後方支援、捜索・救難能力の強化を謳っています。
 
 日本以外の地で紛争が発生し、邦人の救出中に米軍が第三国から攻撃されることもありえます。そのような場合に自衛隊は米軍に協力することなども新「方針」に記載されました。
 以上のように、新「指針」は、法律や行動規範が不十分であった点(切れ目)を改め、あるいは補って適切な対応ができるようにしました。新「指針」は、この「切れ目のない」対応を強調しています。

 次は他国において平和を実現し、維持する場合であり、通常国連決議に従い複数の国が参加します。これはさらに、国連平和維持活動(PKO)のように、紛争が終了あるいは停戦が成立している場合と、紛争が継続している場合に分けて見ていく必要があります。日本国憲法9条は「国際紛争を解決するために武力を行使してはならない(分かりやすい言葉で言い換えています)」と規定しているので、紛争が終わっておれば日本は行動しやすいですが、終わっていなければ憲法違反などさまざまな問題がありうるからです。
 PKOにおいては、従来自衛隊の武器使用は非常に制限されており、国連としての義務を果たす上で障害となっていましたので、国連加盟国として通常の武器使用を自衛隊にも可能にする方向で法整備が進められています。新「指針」はこれに対応して、自衛隊は同じ任務に従事する、つまり同じPKOで活動する各国の部隊を保護できると明記しました。その中には米国の部隊ももちろん含まれます
 一方、いわゆる多国籍軍の活動に自衛隊が何らかの形で協力する場合、PKOと異なり、紛争は終結しておらず、日本国憲法が固く禁止している、国際紛争に日本が巻き込まれる危険があります。それでも、日本はこれまで、アフガニスタンやイラクでの多国籍軍の行動に一定程度協力しました。しかし、戦争に直接参加するのでなく、戦闘が行われていないことが確かめられる地域(非戦闘地域)に限定して、給油、輸送、道路工事など可能な限りの協力を行ないました。
 しかし、これらの場合のように問題が起こった後で特別法を作るのでは時間がかかりすぎて機動的に対応できないので、政府は、いつでも迅速に行動を開始できるように恒久法(期間を限定せずに施行される法律)として「国際平和支援法案」を制定しようとしています(14日閣議決定された法案の一つ)。
 新「指針」では「三ヵ国間および多国間の安全保障及び防衛協力を推進・強化する」ことなど原則的な方針のみを記載しています。
 他国が第三国から武力攻撃を受けた場合も、通常は国連が関与し、多国籍軍が派遣されますが、一定の期間に限って、たとえば朝鮮半島などで米軍だけが行動することがありえます。これに自衛隊の協力が求められる場合、新「指針」では、「自衛隊は、日本と密接な関係にある他国に対する武力攻撃が発生し、これにより我が国の存立が脅かされ、国民の生命、自由及び幸福追求の権利が根底から覆される明白な危険がある事態に対処し、日本の存立を全うし、日本国民を守るため武力の行使を伴う適切な作戦を実施する」と定められました。これに該当する事態は「存立危機事態」と呼ばれています。
 この種の国際協力については、国連が対応する前でも後でも、日本が紛争に巻き込まれないための保証をどのように確保するかが重要なポイントとなります。日本の閣議で決定された集団的自衛権行使のこの要件はそのための重要なカギとなるものであり、新「指針」もほとんどそのまま引用しました。
 機雷の掃海は、紛争が継続中に行なわれると、米国と敵対している国から日本も敵対しているとみなされ、ひいては紛争に巻き込まれる危険がありますが、同じくこの要件にしたがって自衛艦派遣の有無が決定されると思われます。

 「指針」の改定によって、切れ目のない対応ができるようになり、自衛隊の機動性は高まること、自衛隊の活動範囲が「周辺事態」に限られなくなり地球規模での活動が強化されることはすでに指摘しましたが、一方、米国にとっても日本の法整備と新「指針」は重要な意味合いがあります。
 形式的にはともかく、実質的には日本が米国に一方的に依存していた安保条約体制において日本が米国に協力する範囲が拡大し、いわば日米安保体制の相互性が高まります。日米両国はグローバルなパートナーとして同盟関係を強化しました。
 かねてから地球規模で活動し、重い負担を強いられている米国にとって日本は頼もしい援軍となります。安倍首相が訪米した際にオバマ大統領が見せた笑顔は米国がいかに喜んでいるかを象徴しています。
 一方、韓国は警戒しつつも、日本が韓国に対し丁寧な説明を行なったことなどは評価しています。
中国は、今回の「指針」改定が中国を意識したものであることから、事前にしきりに警戒する姿勢を示していました。改定後公式のコメントはありませんが、中国は日本の安保法制と日米同盟の強化を強く警戒しています。中国政府のこのような姿勢を反映してか、中国のメディアには「日本の自衛隊の米軍支援の範囲が大幅に拡大した(環球網5月2日)」「日本の説明は防衛のためであることを強調しているが、行間に「攻め」の殺気が透けて見える(中国新聞網5月5日)」などの記載があります。

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