平和外交研究所

オピニオン

2017.09.08

中国における軍改革の完成と習近平の絶対体制

 第19回中国共産党大会の開催を来月に控え、中国軍の改革がほぼ完成したらしい。軍の改革は今次党大会の目玉になるとも言われている。習近平主席は軍事においても権限を一身に集中させることになった。

 軍の改革は、第18回党大会で定年退職した郭伯雄および徐才厚両副主席の汚職追及を皮切りとして進められ、制度改革はほぼ完成している。
 まず、参謀機能が強化された。どの国の軍でも参謀が中枢の機能であるが、中国では歴史的経緯から「総参謀部」は党の軍内出先機関である「総政治部」、兵站(ロジスティックス)を担う「総後勤部」および装備担当の「総装備部」などと並列の地位に置かれていた。これは解体され、総参謀部は「連合参謀部」となり、他の3つの総部は15の部門に再編された。旧総部が古くからのしがらみの巣窟にもなっていたことへの反省であった。
 兵員数の削減も実行された。
 最大の難問は軍内の腐敗の除去であり、これは郭伯雄および徐才厚の処断後も継続中である。

 中央軍事委員会には2名の副主席が置かれていたが、今回、4名に増加されたことにより各副主席の権限は自然に縮小し、習主席の権限が増大することになる。この新しい仕組みは「軍事委員会主席責任制」と呼ばれている。

 現在の副主席のうち范長龍は第19回大会で定年退職する(1947年生まれ)。もう一人の許其亮は1950年生まれなので定年にはならず、留任する。
 新たに副主席となる一人は、最近連合参謀長に就任した李作成である。前任の房峰輝はさる8月30日に規律違反のかどで拘束された。房峰輝は、胡錦濤主席が任期を終える直前の2012年10月に、次の主席となる習近平に断りなく総参謀長に任命したのであり、郭伯雄・徐才厚の両副主席が引退した後の胡錦濤系の代表と見られていた。習近平としては、胡錦涛は前任の主席であり、引退後もそれなりに遇しなければならないが、胡錦涛の出身母体である共青団(共産主義青年団)には厳しく望んでおり、その権限も削っている。そのようなことも背景にあったと思われるが、房峰輝は現役軍人のトップであり、その排除は簡単でなく、5年近い時間を要した。中国共産党主席と軍との関係は微妙であることをうかがわせる一事であった。

 残る2人の副主席候補は、装備発展部長の張又侠とロケット軍司令員の魏風和であり、前者はいわゆる太子党(革命元老の子)である。太子党だからといってちやほやしてはいけないというのが習近平の年来の主張であるが、習近平が張又侠を抜擢したのは同人をよく知っているからであろう。
さらに、許其亮と張又侠は政治局入りも噂されている。

 習主席は今年の春ごろから「核心」と呼ばれていた。「主席」はもちろん中国共産党のナンバーワンであるが、それは、本来、事務的な呼称である。一方、「核心」とは党規約で決まっている地位でないだけに特別だという意味合いが強い。習主席が引退した後には新しい主席が選出されるが、「核心」と呼ばれるとは限らない。
 「習近平同志を核心とする党中央が強軍と興軍(新興の軍)を指導・推進する」と題する8月30日付の新華社・解放軍報共同論評では、「核心を強力に擁護し、軍事委員会主席責任制を決然とかつ徹底的に守ることが最重要である」「習近平は「党の領袖」であると同時に「軍の統帥」であり、一切の重要問題は習主席が決定し、一切の工作については習主席が責任を持ち、一切の行政は習主席の指示に従う」などと習近平主席を持ちあげた。これはかつての毛沢東礼賛を彷彿させる習近平への忠誠宣言である。

 香港の新聞や在米の中国語新聞などは、習近平は完全に軍を掌握し、「絶対権威」を確立したとも述べている。
 今次党大会への軍の代表も一新されるらしい。軍と兄弟の関係にある武装警察から党大会へ送られる代表303名のうち新人は90%に上るという(『明報』9月7日付)。
 軍の改革は前任の胡錦涛、前前任の江沢民も十分に成果を上げることができなかった難問である。習近平は以前、軍の改革を2020年に完成させると言っていたが、基本的に繰り上げ実行できたことは習近平政権の大きな成功であり、習近平政権は安心して第2期目を迎えられる。

 しかし、絶対権威となると、逆に「個人崇拝」の危険は生じないか。習近平が信頼し、重用しているのはお友達や知人だけではないか。5年後に引退する習主席の後継者もそのような独裁的指導者になりうるか。現在、党中央は将来党のトップ人事においても複数の候補から選挙で選ぶ仕組みを導入できるか検討中だと言われているが、それは、独裁体制を強めたことに対しバランスを取るために議論ではないか。習近平政権の2期目においては、そのような側面からも注目していく必要がある。

2017.09.06

BRICS首脳会議をめぐる中印両国のライバル関係

 BRICSとはブラジル、ロシア、インド、中国、南アフリカのことである。いずれも大きな将来性がある国であり、すでに世界のGDPの2割、総人口の4割を占めている。
 BRICS首脳会議は2009年、前年秋のリーマンショックから世界的な金融危機が発生したことがきっかけとなって設立されたものであるが、G7の向こうを張る意図もあったものと思われる。
 BRICSは毎年首脳会議を開催しており、その枠内で2015年、BRICS銀行(英語ではNew Development Bank略してNDB)を設立した。
 首脳会議でもまたNDBでも中国は主導的な立場に立つ野望を隠さないが、とくにインドはそのような中国に警戒的である。ただし、首脳会議はG7と同様持ち回りで開催されているので、形式的には平等である。
 一方、ADBについては、中国の姿勢は露骨であり、出資比率を他国より高くしたいと働きかけたが、インドをはじめ各国は賛成せず、結局本部は上海に置き、初代の総裁はインドから出すことで妥協が成立した。
 しかし、これでは中国はなお不満であり、別途、中国だけが拒否権を保持しつつ、数十カ国を集めてアジアインフラ投資銀行(AIIB)を設立した。この2つの銀行の設立準備を行ったのはほぼ同時期であり、中国にとっては大きな負担であったはずだが、世界の大国になりたいという願望を実現し、かつ、他の4カ国との協力関係を進めるためには必要だったのである。

 BRICSが発足した頃は世界的に注目されたが、その後各国の経済成長は陰りが生じるようになっており、首脳会議の存在意義も薄くなってきたと見られている。昨年の首脳会議はインド南部のゴアで開催されたが、成果が乏しいまま終了した。
 今年の首脳会議は中国のアモイ市で開催された。中国としてはAIIBを最重視しているが、BRICSは西側に対抗するためにも重要であり、首脳会議が先細りになるのは何としてでも避けたいところであった。

 しかし、今年、新たな問題が発生した。中国とインドの間の一部国境について1962年以来争いが継続していたところ、2017年6月、インドの北東部シッキム州に近いブータン西部の係争地ドクラム高地で紛争が再燃し、中印両軍がにらみ合い状態に入ったのである。これはなかなか収まらず、3カ月近くが経過しBRICS首脳会議が開催される9月3日が間近に迫ってきてようやく両軍は撤退した。中印両国が同時にそのことを発表したのは8月28日であった。もしこの問題が未解決のまま会議が開かれると、BRICS首脳会議には計り知れないダメージとなったであろうし、ホスト国の中国としては新たな消極的要因が加わるのを何としてでも回避したかったであろう。

 かくして、アモイ首脳会議は無事開催された。余談であるが、会議の初日であった9月3日、今度は北朝鮮が核実験を行った。北朝鮮が核やミサイルの実験をするのは、金日成主席の誕生日などに合わせることが多いとよく言われるが、最近はむしろ第三国の重要行事に合わせることが多くなっている。先般の米国の独立記念日の際に第2回目のICBM実験をしたことなどである。北朝鮮は、今回も、中国が力を入れているBRICS首脳会議に合わせた可能性がある。

2017.08.29

中国共産党第19回全国代表大会-中枢の人事

 毎年夏、北京近郊の北戴河に指導者が集まり、重要問題について非公式に意見交換を行う。事実上の決定を行うこともある。今年の北戴河会議は、秋に開催される中国共産党第19回全国代表大会の予備会議の性格を兼ねていたと見てよい。

 習近平総書記が今次党大会で再任が承認されることは確実視されている。あと5年、中国のトップとして君臨するのである。李克強政治局常務委員(首相)も再任される見込みだ。
 
 トップ7のうち残りの5人の常務委員は、党の70歳定年のルールに従い引退する。党大会時に69歳になる王岐山はそのうちの一人でありやはり引退するはずだが、反腐敗運動を指導して実績を上げ、習近平総書記からも高く評価されているので例外的に常務委員として残るのではないかと噂されてきた。
 しかし、王岐山の最近の動静に関する公式の報道ぶりからして、結局引退するとの観測が強まっている。かりに、王岐山を例外扱いすれば、習近平総書記が日頃唱えている「法治」をみずから曲げることになるが、そのような問題が起こることはなくなったということである。
 なお、王岐山については、現在米国に逃亡している富豪、郭文貴が、王岐山の親族による金融がらみのスキャンダルを暴露していることが関係しているとも言われているが、真相は分からない。

 反腐敗運動の関係では、現在も取り締まりが継続している。最近では、同運動の大元締めである規律検査委員会が国務院財政部に設置している規律検査組の組長である莫建成が審査の対象となった。規律検査委員会は全国で猛威を振るい恐れられているが、その一方で、取り締まりの責任者が取り締まりの対象になるのである。中共中央にとっては相変わらずの悩みの種であろう。

 それはともかく、新しい政治局常務委員になるのはだれか。つまり、トップ3から7にだれがなるかは北戴河会議を経てほぼ固まっているという。習近平総書記は5年後の第20回党大会で引退するので、その後継者にだれがなるか。今回の党大会で発表されるトップ7の序列から判明すると考えてよい。
 その候補として一躍躍り出てきたのが、さる7月中旬、重慶市書記(同市のナンバーワン)に就任した陳敏爾である。この人物は、習近平が浙江省の書記であったときに認められたという。そして、習近平は今回、陳敏爾を総書記の後継者として選んだと最近の報道が伝えた。
 
 重慶市は北京、天津、上海各市とならぶ四大直轄市であり、これらと広東省、新疆ウイグル自治区の指導者だけが地方から中央の高位につく資格があるとされている。重慶市はそれほど重要な都市なのである。陳敏爾の前任の孫政才書記は次世代のリーダーの一人と目されていた。しかし、同人は北戴河会議前に失脚し、陳敏爾に取って代わられた。さらに孫の前任の薄熙来もまさに中央の要職に就く直前であったが逮捕・訴追された。現在収監中である。
 
 陳敏爾は、報道が正しければ、今週の党大会でおそらくナンバー3の地位に就くのだろう。これは本人のこれまでの経歴からして抜擢だと見られている。習近平の覚えはよいが、はたして中国のナンバーワンになれるか、不透明である。
 一方、数年前から習近平の次の指導者として評判の高かった胡春華は、陳敏爾を選んだ習氏の意図を察知して「後継者となる気持ちはない」という上申書を党中央に提出したという。これは事実か確認できないが、胡春華は共青団(共産主義青年団)派で、胡錦涛に近い。風向きをいち早く読んで手を打った可能性はあろう。

 習近平は今次党大会で単に再選されるだけでなく、これまでの統治、党や軍の改革を通じて権力を一身に集め、また、「核心」と呼ばれる特別の指導者となったことがあらためて承認される。さらに、習近平が行った諸講話は重要な指導思想と位置付けられるとも言われている。
 習近平政権の第2期目は、第1期目とあまり変わりそうにない。習近平が築き上げた、独裁的とも揶揄される厳しいコントロール体制が変わることはないだろうからである。
 しかし、第20回党大会以後はどうなるか。複雑なことを簡単に推測するのは控えなければならないが、習近平は陳敏爾を通じて事実上の権力を維持したいのだとも言われている。しかし、その通りになるかよくわからない。習近平の前前任の江沢民も退任後上海閥を通じて影響力を維持しようとしたとさかんに言われた。
 それよりもっと深刻な問題は、習近平が作り上げた体制が長きにわたって維持しうるかである。この大問題の帰趨を占うにはあまりにも不確定要因が多いが、今回の党大会ではその手掛かりとなることが、わずかかもしれないが、垣間見えるのではないか。

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