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2014.07.13

米中戦略経済対話

北京で7月9-10日開催された米中戦略経済対話で、中国の海洋への進出、東シナ海・南シナ海での緊張の増大などについて米中双方がどのような発言をするか注目された。対話の中での発言は公表されていないが、冒頭の演説で習近平主席は、「新型の大国関係」を9回も強調しつつ、「太平洋は広大で、米中両大国を受け入れる十分な空間がある」「自国のモデルを相手に押しつけてはならない」と発言した。
また、対話終了後の記者会見で楊潔篪国務委員は、東・南シナ海の領有権をめぐって中国が周辺国と対立を深めていることについて、「中国は今後も領土主権と海洋権益を断固として守る。米国に対し客観的で公正な立場を取るよう求めた」と言明し、さらに「中国は当事国と交渉する」とし、米国を排除する方針を改めて強調した。
習近平主席も楊潔篪国務委員も新しいことを言ったのではなく、従来からの主張を繰り返したに過ぎない。「太平洋は広大で、米中両大国を受け入れる十分な空間がある」とは「太平洋、とくに西太平洋を東半分は米国の勢力圏として残してもよいが、西半分は中国の支配権としたい」という中国の願望を表現したものである。太平洋を分け米中がそれぞれ管理するという考えは、2008年3月の米上院の軍事委員会で、米太平洋軍司令官のキーティング提督が中国の軍人からそのような発言があったと証言している。
残念ながら、中国はこのような主張を今後も繰り返すのだろう。中国がその海洋大国化戦略で拡張を続ける限り、米国を含め近隣諸国との矛盾は避けがたい。この米中対話とほぼ同じときに米国のラッセル国務次官補は、米国の考えは中国と違っていることを明言している。また、米議会では中国の姿勢を問題視する声が(ふたたび)高まっていると伝えられている。

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2014.07.10

イラン指導者の対米積極発言

イランのラフサンジャニ元大統領が、緊迫しているイラク情勢に関連して、「米国とは問題点を共有している。必要になればイランは協力する」と述べたと報道されている。ロハニ大統領もさる6月、米国との協力を積極的に考慮する用意があることを示唆する発言を行なっていた。ラフサンジャニはアフマディネジャド前大統領時代には政治の表に立つことはなかったが、ロハニ大統領と近いと言われており、今回の発言もそのような環境変化が背景にある。
ロハニ政権の下で核問題に関するP5+ドイツとの協議がかなり程度進展していることも、イランと米欧諸国との間の雰囲気を改善するのに役立っている。
オバマ大統領は2009年の就任直後イランとも直接対話する用意があることを示していたが、実際には進展しなかった。一つの理由は、アフマディネジャド前大統領時代核協議が進まなかったためである。またイスラエルはいたずらに時間が経過していくことに苛立ち、イランに対して強硬な姿勢で臨むよう米国に圧力をかけており、その意味では米国の動ける余地が限られていた。また、オバマ政権はシリア問題への対応が原因で内外から批判を受けていたところに、今度はイラクでスンニ派の攻勢を受け、また、イラクのマリキ首相は米軍の撤退後米国の期待した挙国体制の確立とは逆にシーア派のみを重用するなどしたためスンニ派との対立を激化させる結果となり、そうなるとイラク戦争以来の米国の姿勢を問われる結果にもなり、オバマ政権はますます困難な立場に陥っている感がある。
イランのロハニ大統領やラフサンジャニ元大統領はそのような苦境にある米国と関係改善を図るよい機会とみなして対米協調的発言を行なったのであろう。
もっともイラン国内も複雑で対米強硬外交を好む勢力も少なくないので、ロハニ政権としても対米友好ばかりを強調するわけにもいかず、自ずと動ける限度はあろう。
また、イスラエルはまたもやパレスチナとの対立を深めており、双方で攻撃を再開している。米国は例によってイスラエルを擁護しているが、パレスチナ問題を解決に向けて前進させたい気持ちは強く、ケリー国務長官は就任以来2014年1月までに10回もイスラエルを訪問しているが、ネタニヤフ首相とはうまくいっていないようで、両者の間の険悪な雰囲気を伝える声が聞こえてくる。それに7月に入ってからパレスチナ人少年の殺害を機に双方が攻撃を再開した。米国の、ケリー長官の努力は今のところなんら実を結んでいないと言われても反論できないであろう。
イランのロハニ政権が示している外交姿勢は、イラクでもパレスチナ問題でも有効な手を打てない米国にとって積極的な要素であるのは間違いないが、イラン革命以来の米国とイスラエルに対抗するイランという大きな図式を変更する力があるか、そう簡単にはいかない。しかし、イランとイスラエルはもともと国交があり、イラン革命以後のイスラム復興、さらにはアフマディネジャド政権下で関係が悪化したのであり、状況が変化すればイラン・イスラエル関係が変わってくることもありうる。実際に動き出すには米国でもイスラエルでも次の政権になるまで待たなければならないかもしれないが、イランは一足早くこれまでと違った外交姿勢を取る用意ができつつあるようにも思われる。
以上、基本的な観点からの考察に過ぎないが。

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2014.07.09

習近平の内外の強硬姿勢

何気ない発言に真実を垣間見ることがある。北京外国語大学の喬木助教授は7月8日まで休暇を取って来日し、杉並区長選挙、調布市長選挙などを視察した。大学ではメディア論を教えつつ、米国、エジプト、台湾などで選挙の視察をし、今回初めて日本に来たそうだ。自らも全国人民代表大会の選挙に出て、共産党推薦の候補に僅差で敗れた経験もあり、いわゆる新公民運動の活動家である。この人が、「中国でも普通選挙が15年後に実現すると信じている。10年後と言っていたが、習近平政権となってから5年延ばした」と言っている(『朝日新聞』7月9日付)。習近平政権は中国の民主化を5年間遅らせたというわけであり、その特徴をよく表していると思う。
習近平は前任の誰よりも腐敗撲滅に力を入れている。6月30日には長らくうわさに上っていた徐才厚元中央軍事委員会副主任について汚職の罪で処罰し、党籍をはく奪する決定を政治局会議で決定した。中央軍事委員会副主任は軍のナンバー2(一人ではないが)であり、習近平政権の下で汚職の罪で摘発された者のなかで最高の権力者であったとみてよい。周永康元政治局常務委員の処分が決定されるとさらにハイレベルの摘発となるが、これはまだ最終段階になっていないらしい。
習近平は軍内においても汚職追及の手を緩めていない。また、習近平は「軍事改革小組」の主任に就任するなど、何でも自分が長となって実行するという姿勢を軍に対しても見せている。習近平は中央軍事委員会の主任であるから形式的にはすでにナンバーワンになっているのだが、実際の権力をも掌握しようとしているのである。
一方、習近平は、民主化運動はさらに容赦なく弾圧しており、活動家、言論人を投獄している。今年の5月に私の編著で『習近平政権の言論統制』を出版したが、その後も言論弾圧が続いているので、続編が必要かと思っている。
習近平主席は最近韓国を訪問し、朴槿恵大統領とともに歴史問題などで日本に対し厳しい態度を見せた。帰国後まもなく7・7記念日、すなわち日中戦争勃発の記念日に北京郊外の「抗日戦争記念館」で、「日本の侵略者の野蛮な侵略に対し、全国の人々が命を省みず、偉大な闘争に身を投じた。今も少数の者が歴史の事実を無視しようとしているが、歴史をねじ曲げようとする者を中国と各国の人民は決して認めない」などと強調し、中国の抗日戦争を「世界反ファシズム戦争の東の主戦場」と位置づけた。
習近平は最近自らの著作を出版しており、そのなかで、「私は中国の近代史をいつも読んでいる。立ち遅れ、打ちのめされる悲惨な情景を思うと胸が張り裂ける」と述べている。これは日清戦争で敗北した時のことを言っているのだが、中国が近代化を達成し、世界第2の経済大国となり、政治的にも世界中から注目されるようになっている現在でもそのようなことを口にする状況にあるのである。これは習近平に限ったことでなく、多くの中国人に共通の感情である。だからこそ、7・7記念日に生物兵器の人体実験を行なった731(石井)部隊の記事が複数写真入りで出たり、また一方では、「日本はまだ多くの分野で世界一だ」という記事も出るのであろう。
ともかく、習近平が対日政策面で強硬な態度を取っているのは歴史の影響があるからであるが、それだけではなく、内政で民主化を許さないと強硬姿勢を取っていることとも関連があると思われる。習近平は、現体制を維持できるかについて実は心の奥底で自信を持てないのではないか。喬木氏も「言論封じは党の自信のなさの表れ」と喝破している。

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