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2021.09.04

韓国における慰安婦・徴用工問題-新しい動き?

 元徴用工の問題に関し本人や遺族から日本の企業に対し、損害賠償を求める訴訟が提起されていたところ、最近韓国から次のような動きが伝えられた。

 一つは、三菱マテリアルに対して提起された損害賠償請求訴訟(2017年2月)において、さる8月11日、ソウル中央地裁は「消滅時効」を理由に請求を棄却したが、判決文が届いてから2週間の間に原告側が控訴しなかったので、ソウル中央地裁の判決が9月2日、確定した。
 
 他の一つは、三菱重工業に対する同様の訴訟で、9月2日、原告側は差し押さえ申請を取り下げた。

 これら2つの判決は、いずれも日本政府や企業に有利な結果となったのだが、「1965年の日韓請求権協定によって解決済み」であることを判決の理由としたのではなかった。「請求権協定で解決済み」として原告の請求を却下したのは、日本企業16社に対し元徴用工が提起した裁判において、2021年6月7日ソウル中央裁判所が下した判決の1件だけである。

 慰安婦問題については、日本政府は一貫して「主権免除」を主張してきたところ、同地裁では「主権免除は認めない」とした(2021年1月8日)後、「認める」として原告の請求を退ける判決を下した(4月21日)。

 したがって、韓国の裁判所においては、慰安婦や徴用工による日本政府や企業に対する賠償請求を認める判決と退ける判決がともに存在しているが、2021年4月21日以降の判決はすべて原告の請求を認めなかった。

 しかし、「日韓請求権協定で解決済み」であると明示したのは前述の1件のみで、他に「主権免除」を認めるとしたのが1件あり、その他は「原告による申請の取り下げ」、「消滅時効の成立」などが理由とされた。

 このように見ると、「慰安婦問題も徴用工問題も請求権協定で解決済み」であることを韓国の裁判所が受け入れた、あるいは日本側と同じ判断を行うに至ったと考えるのは時期尚早であり、さらに今後の推移を見届ける必要があると考えられる。

 以下に、2021年1月1日以降の諸判決の要点をまとめておく。ただし、判決の原文を確認したものでないことをことわっておく。

注1 
「差し押さえの申請を原告が取り下げ」(2021年9月2日 徴用工対三菱重工)
「消滅時効の成立」(2021年9月2日 徴用工対三菱マテリアル)
「主権免除を認め、差し押さえできない」 2021年4月21日 慰安婦対日本政府
「主権免除は認めない。慰謝料を支払え」 2021年1月8日 慰安婦対日本政府

「請求権協定で解決済み」 2021年6月7日 徴用工対日本企業16社

注2 大法院判決
「慰謝料の請求は請求権協定の対象外」 2018年10月30日 徴用工対新日鉄住金(現・日本製鉄)及び三菱重工業 
「韓国政府が慰安婦問題の解決のために努力しないのは違憲」 2011年8月30日 慰安婦対韓国政府
「下級審による原告敗訴の判決を破棄・差し戻し」 2012年5月24日 徴用工対新日鉄住金(現・日本製鉄)・三菱重工 「未払い賃金と賠償金の支払い」を求める裁判

注3 BC級戦犯からの補償請求
「韓国政府が日本政府と補償交渉をしなかったのは、日韓請求権協定で定める外交交渉の義務違反でない」 2021年8月31日  BC級戦犯対韓国政府
2021.09.03

中国の海上交通安全法改正

 9月1日、中国の「改正海上交通安全法」が施行された。海上交通の安全管理のための新システムを構築し、海上安全保障能力の向上、資源輸送の安全保障、中国の国家海洋権益の擁護、中国の経済発展の促進を目的とする、と中国側では説明している。

 この改正により海上交通の監督を担う海事局の権限が強化され、危害を及ぼすと判断した外国船に対して目的地などの報告を義務づけること、海事当局が脅威と判断した外国船に領海外退去を求めることが中国の法律上可能となる。

 また中国海事局の発表では、潜水艦、原子力船舶、放射性物質を運ぶ船舶、バラ積みの油、化学品、液化ガス、その他有害物質などの積載が義務的報告の対象になるという。

 中国は南シナ海、東シナ海を含む海域を一方的に自国の領海とし、台湾、尖閣諸島、南沙諸島、西沙諸島などをすべて自国の領土とする「中華人民共和国領海及び接続水域法(領海法)」を1992年に制定した。これがもっとも基本的な法律である。

 2013年頃から中国は南シナ海で人工島を建設し始めた。これに対し、国際仲裁裁判所は2016年、中国の南シナ海に対する主張は根拠がないとの判断を下した。

 しかし、中国はこれを「紙切れ」と呼び、受け入れを拒否した。国連安全保障理事会の常任理事国としてあるまじき行為であった。

 2021年2月には、海上保安船(海警船)に武器使用を認めた「海警法」を施行した。そして今回の「改正海上交通安全法」で、外国船を強引に中国当局の管理下に置いたのである。

 中国のこのような一連の行為は、公海を一方的に自国の領海とし、航行の自由を妨げ、国際法に違反している疑いが濃厚であり、今後さらなる拡張的行動に発展する危険がある。

 米国では、9月1日、国防総省と国務省が、「航行と貿易の自由に対して深刻な脅威となる。中国は海洋の国際法を順守しなければならない」と表明した。

 我が国では、本改正法がさる4月、中国の全人代(国会)常務委員会において採択される直前の2021年4月26日、加藤勝信官房長官より「法案をめぐる動向もしっかりと注視、フォローアップしていかなければならない」と述べたが、9月1日の施行後日本政府はまだ何も表明していない。現在対応を検討中かもしれないが、問題の重大性にかんがみ、日本政府としての立場を改めて明確に表明すべきである。

 日本国として単独に立場表明を行うこともありうるが、同じ立場に立つ米国、オーストラリア、東南アジア諸国、さらにはEU諸国とともに、たとえばASEAN首脳会議などで共同の声明を行うほうが国際社会としての姿勢をより明確に示せるかもしれない。
2021.09.01

タリバンによるアフガニスタン支配

アフガニスタンに関し、ザページに「「タリバン新政権」国際社会はどう対峙する? 中ロは融和的か」を寄稿しました。
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